(コスモス村代表の山下が日本スクールソーシャルワーク協会の会報に、”エイブの映画あれこれ”というコラムを2013年~2017年まで執筆し、同氏のお気に入りの映画について雑感を記しているのですが、このコラムの記事を皆さまと共有したく、同協会に了承を得て順次転載させていただくこととしました。)
第1回目は、ソーシャルワーカーが肯定的に描かれた映画について述べたが、今回はその逆で否定的なイメージで描かれた映画についていくつか取り上げようと思う。
❶「ムーンライズ・キングダムMOONRISE KINGDOM」
まず、最初は昨年公開された「ムーンライズ・キングダム」(2012米)という映画だ。これは思春期の男の子と女の子が恋に落ち、駆け落ちをしたことによって大騒動が起きるという物語だ。映画の冒頭からしばらくは、何だかふざけた映画作りのような気がして途中で観るのを止めようかと思ったほどだったが、後半にさしかかるとけっこう気持ちを入れて観るようになり、最後はほのぼのとした気持ちにさせられたというニクイ映画だった。この中に、両親がいない主人公の少年を保護すべく現れるのがソーシャルワーカーである。この映画はコミカルな味つけがなされているので、それほど酷い描き方はされていないのだが、規則に忠実で融通がきかない役どころであり、ソーシャルワーカーがステレオタイプに表現されていてなかなか面白かった。ちなみに、この映画ではブルース・ウィリスが冴えない田舎の警察官を演じたり、名優エドワード・ノートンがやはりまったく冴えないボーイスカウトキャンプのリーダーを演じたりしていて、これがストーリーとは別の興味をかきたててくれるという楽しみ方もできる。
❷「レディバード・レディバードLADYBIRD, LADYBIRD」
次は、前回取り上げた「オレンジと太陽」の監督ジム・ローチの父親であるケン・ローチ作の「レディバード・レディバード」(1994英)である。これはイギリスであった実話をもとにして作られた作品である。貧困に喘ぎながら暮らしている女性が火事を起こしたことをきっかけにして、子どもを里子に出されてしまい、子どもたちを取り戻したいと願い続けるストーリーである。この映画には、ソーシャルワーカー自体は、あまり登場することはないのだが、全編を通じてソーシャルワーカーの影が主人公の暮らしを覆い尽くしおり、その存在感は大きい。母親の視点からソーシャルワーカーのイメージが描かれているのだが、ソーシャルワーカーは冷酷無比の存在として描かれている。全体に陰鬱でやるせなさが漂う映画である。
❸「エイミー AMY」
3番目は、オーストラリアの映画「エイミー」(1998豪)だ。これは大好きだった父親の事故死をきっかけにして言葉を失った少女が、歌を通して癒やされ言葉を取り戻していくというストーリーである。この中にもエイミーを母親から引き離し保護しようとして出て来る二人組のソーシャルワーカーが出て来る。これは、いい人たちが出て来るハートウォーミングな映画であり、警察官だって人情ある人々として登場するのだけど、近所の飲んだくれの親父と規則に忠実なソーシャルワーカーたちだけが敵役として描かれている。
❹「アイ・アム・サム I AM SAM」
最後は、ビートルズの曲がバックにふんだんに流れる「アイ・アム・サム」(2001米)だ。この映画は観た人も多いのではないかと思う。知的障がい者の父親役を演じるショーンペンの名演と、その娘役ダコタ・ファニングの愛らしさが記憶に残る佳作であるが、ここでもソーシャルワーカーが出てきて父と子を引き離そうとする役割を果たそうとしている。
ここで取り上げた作品におけるソーシャルワーカーの描かれ方は、見事に画一的である。いずれも規則に忠実で融通がきかず、しかも判を押したように、ばっちりとスーツ姿に身を固めている。ソーシャルワークの基本的姿勢である人間尊重や共感的態度などとはまったく無縁な存在である。これらの映画を観た人たちは、ソーシャルワーカーに決していいイメージを抱かないであろう。まして、ソーシャルワーカーになりたいなんて決して思わないはずだ。だからといって、そうした描き方に問題があるというよりは、ソーシャルワーカーの社会的なイメージがやや誇張された形で描かれているということだろう。
スクールソーシャルワーカーも、学校制度の護持にばかり眼を向けたり、教育委員会の言いなりになって活動を続けていると、困難を抱えている子どもたちやその親たちから、映画と似たような受けとられ方をされかねない。今回挙げた映画は、ソーシャルワーカーたちがどのように振る舞い行動すべきかを、別の側面から教えてくれていると僕は思っている次第だ。
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❶ムーンライズ・キングダムMOONRISE KINGDOM (2012米94分) 監督:ウェス・アンダーソン
❷レディバード・レディバードLADYBIRD, LADYBIRD (1994英102分) 監督:ケン・ローチ
❸エイミー AMY (1998豪103分) 監督:ナディア・タス
❹アイ・アム・サム I AM SAM (2001米133分) 監督:ジェシー・ネルソン