修復的対話は、「対人(集団・民族)間のトラブルを対話によって平和的に解決する」という方法です。これは世界各地の私たちの祖先が用いてきた紛争解決のやり方にルーツがあります。
その根底には、人はそれぞれが価値ある存在であり、お互いにつながり合い、それらの関係は均衡が保たれていることが重要だという世界観がありました。だから、損なわれた関係は全体のバランスを崩すとされ、均衡を取り戻す必要があると考えられていました。
そこで、平衡状態を取り戻す方法として対話が活用されました。
人それぞれに価値があるという理念は、対話の場においてはお互いを尊重するということを意味し、話し合いは必然的に平和的な形で行われることになります。
こうした平和的な紛争解決法は、近代化の過程で片隅に追いやられ、相手を非難したり糾弾するという方法が主流になりました。その結果、関係の分断化が進行するようになり、孤立が蔓延し、結果的に生きづらさを覚えさせる社会となりました。
修復的対話は1970年代半ばにカナダで再評価され、今日多くの社会で懲罰的な方法の代替手段として取り入れられています。
往々にして人を非難したり、排除したりする他罰的な傾向がある社会において、対話によって他者を包摂し、協働してお互いの平和的な暮らしを探る修復的なアプローチは、共生的なコミュニティを築くことに寄与することができると思われます。
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原理
修復的対話において、もっとも基本的かつ重要なことは人間尊重です。お互いを尊重する姿勢は平和的な対話のベースとなります。
定義
修復的対話の第一人者であるハワード・ゼアは、以下のように定義しています。
修復的対話とは、個人あるいは集団が
①受けた傷を癒し、事態を望ましい状態に戻すために
②問題に関係がある人たちが参加し
③損害やニーズ、及び責任と義務を全員で明らかにすると同時に
④今後の展望を模索する過程である
※ゼアは定義を4つの項目に分けているわけではありませんが、より分かりやすくするために分けて表記しています。
決まりごと
対話に際して以下の4つのルールがあります。
①お互いを尊重する
②相手の話に耳を傾ける
③相手を非難しない
④話したくないときは話さなくてもいい
この他に、対話の場で話されたことを他の場所で話さないということ、対話への参加はあくまでも自主的なものであることも忘れてはならないことです。
修復的対話と一般的な話し合いと異なる点は、参加者全員の対等性と発言の機会を保証するところです。
修復的対話には、<コンファレンス>と<家族グループコンファレンス(FGC)>、<RJサークル>、と3つの方法があります。いずれも基本的な考え方は同じですが、方法と参加者には違いがあります。
コンファレンス
対人あるいは集団間のトラブルを、ファシリテーターの進行によって当事者とトラブルに関係のある人たちが参加して、協働的な対話によって平和的に解決しようとする方法です。
コンファレンスの場合は、対立が明確、あるいは被害者と加害者が存在する中での関係の修復が主眼になります。ファシリテーターは中立的なスタンスを保持し、自分の意見は述べずに、対話がスムーズに進行するように努めます。
家族グループコンファレンス(FGC-Family Group Conference)
トラブルの片側のみの当事者と関係者、直接的な被害者が存在しない事案(無免許運転や薬物の使用など)などで実施します。
RJサークル
特定のテーマに関する対話によって、人間関係の構築や相互理解を目指す方法
もともとトーキングサークルと言われていましたが、RJの考え方をベースにしていることから、私たちはRJサークルと称しています。
RJサークルの場合は、さまざまなテーマで話し合いをしますが、人間関係の構築および、関係の再構築が基本です。通常の話し合いと差別化するために構造化されているのが特徴であり、簡単なルールと参加者全員の発言を保障するためのトーキングピースの使用があります。また、特定の成果を求めたり、発言を評価しないということにも特徴があります。
英語でRestorative Justiceと表記します。わが国では、刑事司法分野において最初に紹介された経緯があるため「修復的司法」と訳されてきました。
しかし、この邦訳は司法分野以外での取り組みには適さないため、対話を主体とすることに着目して、私たちは「修復的対話」と呼んでいます。他に「修復的正義」や「修復的実践」と称されることもあります。
領域に関係なく修復的なアプローチ全体を表すときには「RJ」と略記することも多いです。
沿革
①1974年にカナダのキッチナーでRJが初めて少年事件に適用され、その後北米を中心に広がる。
*前掲の『ラス・ケリー 再生への道のりー修復的司法誕生の物語』は事件実行者の少年が成人してから書いた著作。
②1989年に成立した「ニュージーランドの家族及び少年法」では、事件を起こした少年はすべて家族グループコンファレンス(FGC)に参加することとされた。
*先住民マオリ族の伝統的な紛争解決法が取り入れられた。
③1995年、南アフリカのアパルトヘイト廃止後に設置された「真実和解委員会」(TRC:Truth and Reconciliation Commission)や、東ティモール、アルゼンチン、シェラシオネ、ペルーなど、多くの国で紛争後の対処手段として取り入れられている。
④1990年代半ばからは、カナダ、アメリカ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、韓国など、世界各地の学校で取り組みが展開されている。