(コスモス村代表の山下が日本スクールソーシャルワーク協会の会報に、”エイブの映画あれこれ”というコラムを2013年~2017年まで執筆し、同氏のお気に入りの映画について雑感を記しているのですが、このコラムの記事を本ブログの読者の方たちと共有したく、同協会に了承を得て順次転載させていただくこととしました。第1回目はイギリス映画の<オレンジと太陽>です) ひょんなことから、新しいコラムに映画に関する雑感を執筆することになりました。マニアでもなく通でもないのですが、映画が好きであることは確かなので、僕が所有するDVDの中からいくつかの映画を取り上げて、気ままに述べてみようと思います。 というわけで、最初に取り上げるのはイギリス映画の「オレンジと太陽」です。監督は、僕のお気に入りのケン・ローチ監督の息子のジム・ローチで、これが監督としてのデビュー作品です。これをここで取り上げる理由は、この映画がソーシャルワーカーを主人公にしているからです。ソーシャルワーカーが主人公の映画なんてまずお目にかかることはないし、登場人物として描かれる場合は大抵冷淡で無情な存在として主人公を追い詰めるような役柄が多く、ソーシャルワーカーの援助者としての存在意義に確信を抱いている僕としては、悪者として描かれることに複雑な思いを禁じ得ないのですが、この「オレンジと太陽」は違います。僕たちにソーシャルワーカーのひとつのモデル像を示してくれ、勇気さえ与えてくれます。 この映画は、マーガレット・ハンフリーズの児童移民に関する実体験にもとづいた著書をもとにしています。児童移民とは、養護施設の子どもたちを長い年月にわたって英連邦の旧植民地に移住させた事業であり、本作はオーストラリアに強制的に移住させられたというある女性から、自分のルーツを調べてほしいと相談を受けるところから始まります。オーストラリアからはるばる訪ねてきたという女性は、子ども時代英国の児童養護施設にいましたが、ある日、他の児童たちとともにオーストラリアに移送されたというのです。その移送に疑問を抱いたマーガレットが調査したところ、女性と同じ扱いをうけた人々がオーストラリアにたくさんいることを知り、彼らの家族を探すことにしました。彼女のそうした行動に児童移民の事実を隠蔽したい人々はさまざまな圧力をかけますが、そのスキャンダルを白日のもとに晒し、かつての子どもたちの支援活動に精力を傾け、ついには英、豪両国首相が事実を認めさせるという結果を導き出すに至りました。 こう書くと、勇ましい女性の物語のように思われるかも知れませんが、映画は抑制のきいたトーンで展開し、ひとりの女性がなすべきことに出会って、それに対して誠実に取り組む姿を描いています。静謐なという形容がぴったりくるような雰囲気に貫かれていますが、僕にはその静けさが移民させられた子どもたちに対する優しい眼差しから来るものだと思われ、この作品を好意をもって受け止める根拠になっています。ご覧になってない方はぜひどうぞ。 ********************** “オレンジと太陽”(106分/日本公開2012年4月) 監督:ジム・ローチ 主演:エミリー・ワトソン 原作:『からのゆりかご~大英帝国の迷い子たち~』 近代文藝社; 改訂版 (2012年2月)